この度、第16回日本中性子捕捉療法学会学術大会・大会長を拝命いたしました京都大学複合原子力科学研究所・粒子線腫瘍学研究センター長の鈴木でございます。本学術大会の第1回大会長が京都大学原子炉実験所・医療基礎研究施設長の小野公二先生(現、大阪医科大学BNCT共同医療センター・センター長)でした。16年を経て、再び研究用原子炉, Kyoto University Reactor (KUR) を有する京都大学複合原子力科学研究所に属する私が本学術大会を主催させて頂くことは、大変光栄なことであります。
2018年4月に京都大学原子炉実験所は、京都大学複合原子力科学研究所(以下、複合研)に改名し、「原子炉」が施設名から消えました。この改名は、2026年に予定されているKURの停止に向けて、研究所として放射線を利用する全ての研究を「複合原子力科学」として、先進的な研究を進めていく決意を込めて行われました。この改名に伴うように、BNCTの臨床は、加速器BNCTの登場により、大きな転換期を迎えました。米国生まれのBNCTという医療は、日立炉(HTR)、武蔵工大炉(MuITR)、JRR4, KURの原子炉施設を利用して、多くの基礎研究、臨床研究の成果を産み出し牽引してきた、故畠中教授、故三島教授をはじめとする多くの医師、医学物理士、診療放射線技師、看護師、スタッフの手から、加速器BNCTという形で、医療機関の医師、診療スタッフに近い将来、完全にバトンタッチされます。
このタイミングで近い将来、研究所から失われる原子炉と医療機関に導入され発展していく加速器という2つの中性子源を有する複合研が、主催する本学術大会のテーマは、「Neutron Capture Radiation (NCR) 研究の多様性を考える」としました。様々な分野の研究者から構成される本学会の学術大会にふさわしい、中性子捕捉反応を利用した多様な研究成果が発表、議論される学術大会になることを期待しています。また、NCRを利用する研究そのものは、放射線生物学研究、その反応を利用しての中性子捕捉療法の研究、新規薬剤開発の研究が中心になりますが、それら研究の全てを支えるのが医学物理研究です。生物基礎研究の結果、臨床研究での治療効果の結果をグラフに表して評価するときの横軸であるところの、線量、中性子量に誤り、誤りまでいかなくても大きな誤差を含むものであれば、研究そのものが価値のないものになります。その意味で、NCR研究における品質管理を考えた場合、臨床研究での医学物理士の品質管理での重要性はよく知られていますが、基礎研究における重要性も極めて大きいものがあります。医学物理分野の研究者の方から、新たな測定原理、測定方法の高精度化など先進的な研究成果の発表を期待しております。
これら、基礎研究の成果を積み上げていくことが、KURが停止した後にも、全国にNCR基礎研究が実施できる加速器中性子源を有する研究所が複数存在する、若い研究者が研究環境に不安をもたずに、NCR研究に参画できる将来に繋がっていくものと信じています。まだ、残暑が残る9月ですが、16年ぶりの京都の地での本学術大会で、皆様にお会いできることを楽しみにしております。